高岸さんはご結婚をされてお子さんも生まれました。
そこで価値観やライフプランの変化はありましたか。
高岸 よく言われる「自分だけの身体じゃない」という言葉に、実感が出てきました。仕事は、僕がやりたくてやり始めたことで、いわば僕のエゴですが、子どもにとっての父親は僕しかいない。代わりのいない存在という責任を感じています。それに、僕が仕事に出ている間、妻はワンオペ。母親には勝てないなと思う瞬間もたくさんありますが、僕も子どもに愛情をもっと与えたいし、二度と来ないこの瞬間を家族で共有したい気持ちは大きいので、沐浴とかおむつ交換とかミルクとか、家に居るときにやれることは積極的にやるようにしています。特別なことでもないんですけどね。
お子さんにはどんなふうに育ってもらいたいですか?
高岸 僕自身がそんなに立派な人間ではないので、言えるようなこともないのですが…せっかく生まれてきたんだから、楽しく自分の好きなことを見つけて生きていってほしい。辛い経験、苦しい時間も大切な要素かも知れないけど、そこに自分がやりたいことがあって、興味を持ったことは、親が抑制せずに、経験してほしいです。何より健康でいてくれたら一番です!
前田さんは結婚についての将来像はありますか?
前田 「プロ野球選手の夢」みたいに、実現しないと失敗になるし、いろいろな分岐点があると思うので、結婚についても可能性として考えています。0でもないし、今すぐしたいかと言われると、すぐじゃなくてもいい。ライフプランって、ツリー状であっていいというか、あってしかるべきじゃないかな。夢や目標を立てて達成することよりも、デザインしてその過程を充実させる行為の方に意味があると思います。未来をたくさん分岐させていくと、あんなにバットを振って努力した方向性を、別の方向に向けることができますから。つまりは、僕が結婚する気があるかどうかで言うと、どっちもありってことです(笑)。
お二人の大事にされている価値観について教えてください。今までの人生を振り返ってみて、
この経験が大事だったな、すごく印象に残っているなということは何ですか。
前田 僕は野球の夢が叶わなかったことですね。甲子園に行けませんでしたが、人口で言えば甲子園に行けなかった人のほうが多いんです。数で言えば、行けなかった人のほうが普通で、聞こえは悪いかもしれませんが「その他大勢」なんですよね。でも、多くの人と同じ経験をしているからこそ、「その他大勢」の気持ちに寄り添えるのかもしれない。「特別な人」の気持ちしか分からないよりは、そのほうがいいかもしれません。もちろん、野球以外の分野では、僕が「特別な人」になるもかもしれませんが。それでも、野球の経験で得た“何者でもない自分”は、ある意味自分の安心にもなっています。そこに自己愛がプラスできれば最高ですね。野球選手にこだわっていたからこそ、「こだわらないことの大切さ」に気付けたし、すごく大事な経験だったと思っています。
高岸 僕の場合も、大学時代に、イップスと肘の故障で野球をやめたことですね。プロ野球選手になることしか考えていなかったので、野球選手以外の生き方がわからなかったし、呼吸するようにやっていたことができなくなった中で、どうやって生きていきたいのか、どういうときに自分は喜びを感じるのか、と考えました。それで、応援していただいたり、関わってくれたりした人たちに、誇りに思ってもらいたかったし、そういう人たちを応援したいと思えた。応援のパワーを知っているからこそ、いろいろな人にそのパワーを与えていきたいという価値観をあぶり出せたんです。それは、あの時にプロ野球選手になれなかったという経験がもとになっています。プロ野球選手の夢も、親や親戚に喜んで欲しかったからということもありましたし、でもその感情は、プロ野球選手でなくても叶えられると気付きました。
今、誰かが抱いている夢や目標も、もっと深く考えていくと、別の可能性に気付くことがあるかもしれないですね。お二人には、自分の核になるような座右の銘や言葉はありますか?
前田 僕はパスカルの「人は考える葦である」。人は弱いけど考えることはできて、そこに価値があるんじゃないかという気持ちになります。望んで生まれたわけでもないのに、みんな偉いよね、って。人間は弱い生き物なんだから、考えて幸せになりましょう、って思います。資本主義社会は、できなかったり、結果が伴わなかったりするとダメだと評価されて、ダメな結果だったと言われると、人は弱いのでショック受けるけれども、弱いからこそ、考え方ひとつで幸せになりましょう、と思うんですよね。
高岸 僕はやっぱり「やればできる!」。これはもともと高校の教訓ですが、僕としては「やれば成長できる」という意味を込めて伝えています。前向きに挑戦することの大切さもありますし、挑戦には成功も失敗もあって、失敗から学んだ成長もあれば、成功して学ぶ成長もある。必ず成長できるんだよ、という応援メッセージを送ることで、みんながチャレンジしていけるのではないか、前を向いてやりたいことをどんどんできるんじゃないかと思っています。